空間の重要性: Google の科学を活用した学習効果向上方法とは

はじめに
窓のない白い部屋に硬いプラスチックの椅子がぎっしり並んでいる光景を想像してみてください。退屈に感じてしまうのではないでしょうか。殺風景な環境で自然光が欠如すると、モチベーション、積極性、創造性を低下させることが知られています。また、座席が固定されていると、交流とコラボレーションの機会が減少します。
では、こんな光景はどうでしょう。あなたは自由に移動できるようにいくつか設置された、座り心地のよい椅子に座っています。近くのテーブルには小さな鉢植えが置かれ、窓から太陽の光が差し込んでいます。先ほどよりもやる気を感じるのではないでしょうか。自然の環境と快適な家具があれば、集中力、創造性、認知能力が高まります。また、座席を柔軟に移動できるようにすれば、人の移動や交流が促されます。

新しい科学分野「神経美学」
神経美学の研究者は、従来の五感の枠組みを超えて、脳のイメージングとマッピングを利用します。これらによると、思慮深く多様な空間を設計すると、脳の活動を活性化し、ひいてはそれが学習成果を高める重要なカギとなりうるという科学的証拠が示されています。
Google と神経美学の関わりの歴史
Google の最初の探究は、ミラノの国際デザイン見本市「サローネ デル モービレ」で行われました。Google ハードウェア デザイン グループは、一流の神経美学研究者グループと協力して 3 つの部屋で構成される公開展示会を開催しました。それぞれ異なる外観、感触、香り、音に加えて、独自の質感、色彩、デザイン要素を備えた部屋です。
希望する参加者に、空間による生物学的反応を測定するための特製リストバンドを着用してもらい、見学の最後に、どの部屋が最もくつろいで過ごせたかを示す科学的データが確認できるようにしました。この「Space for Being(そこにいるための空間)」プロジェクトを通して、環境がすべての人間にどれほど深い心理的影響を及ぼすかが明らかになりました。
神経美学の原理を学習スペースのデザインに応用する
Google School for Leaders はこの取り組みをさらに発展させ、ジョンズ ホプキンス大学の International Arts + Mind Lab(IAM)および Rapt Studio と提携して、カリフォルニア州マウンテンビューにある Google のキャンパスに専用学習スペース「Schoolhouse」を設置しました。Schoolhouse では、学習デザイナーは、物理空間の活性化のために次のような神経美学の基本原則を利用しています。
個人、少人数、大人数用の学習エリアを備えた、柔軟性の高いイベント スペース。たとえば、Schoolhouse の中央の部屋は機械的に上げ下げできるカーテンで 3 つに分割されており、キャスター付きのソファ、椅子、棚、植木鉢などを柔軟に配置してさまざまなタイプのセッションに対応できるようになっています。
美しさと機能を兼ね備え、色彩、質感、曲線、コントラストにそれぞれ個性を持つ、厳選家具とオブジェ。好奇心を刺激するため、Schoolhouse には慎重に選ばれた 100 点以上のオブジェが展示されています。

さまざまな学習モードに合わせてキュレートされた多様なプレイリストで再生される音楽。元々 Schoolhouse のイベント用に作成されたプレイリストですが、現在は世界各地のリーダーシップ育成プログラムのファシリテーターが使用しています。
施設の役割の理解と施設内の移動をサポートする、案内表示と入場エクスペリエンス。Schoolhouse で開催されたあるイベントでは、プログラムの参加者は入場時に、壁に留められたミニチュアの手編みのセーターにスマートフォンを安全に収納できるようになっていました。このエクスペリエンスは、快適さとセキュリティを強調するためのものです。

自然環境要素。日光を最大限に取り込み、広々とした眺めを用意し、植物を配置し、天然素材を強調します。Schoolhouse には、屋外の空間もあり、参加者は、屋外の環境で認知的・感情的な影響を受け、それを学習に有効活用できます。
学習の可能性を広げる
Google School for Leaders は、神経美学分野の探究と Schoolhouse の設計を通して、Google のリーダーの主要な学習目標をサポートする一連のデザイン原則を発見しました。現在、これらの原則は、Schoolhouse と世界各地の小規模な学習施設で対面式学習エクスペリエンスをデザインする際に、羅針盤の役割を果たしています。
どんな規模の組織でも、大きな仕掛けと小さな工夫で空間を活性化することで、目的に適った学習環境を構築できます。手始めには次のようなアイデアが参考になるでしょう。
- 柔軟に配置できるスツールやキャスター付きテーブルなどの家具で、ァシリテーターと参加者がその時々のアクティビティに合ったスペースを確保できるようにします。
- 明確な案内表示で、到着時や休憩時などの参加者の認知負荷を軽減します。
- 到着時、休憩時、移動時などに合わせて意図的に音楽プレイリストを選択して、プログラムの情緒的ムードを形成し、記憶を補います。
- 窓と自然光でストレスを軽減し、気分を高め、前向きな学習環境を生み出します。
- The Schoolhouse、Google
- Beauty and the Brain、ジョンズ ホプキンス大学
- Your Brain on Art
- A Place to Learn: Lessons from Research on Learning Environments、UNESCO