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イノベーションが​生まれる​職場環境を​つくる

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はじめに

イノベーションとは、新しいアイデアを取り入れて形にし、それを試して実装するプロセスです。新しいアイデアを生み出すために発揮するのが創造性で、イノベーションと創造性は異なります。創造性はイノベーションの重要な要素ですが、プロセスの 1 ステップにすぎません。ある研究では競争の激しいダイナミックなビジネス環境では、組織のイノベーション力が長期的な成功を測る指標となることが明らかになりました。イノベーションと組織の収益の間に正の相関関係があることを示した調査結果もあります。

近年は技術進化のスピードに伴い、イノベーションに対するプレッシャーもますます高まっています。多くのテクノロジー企業は、組織の業務にイノベーションを組み込むべく意識的に取り組みを行ってきました。3M 社は、従業員が業務時間の 15% を使って独自のアイデアを探求することを許可する「15% カルチャー」プログラムを開始しました。この概念は、後に Google や他の企業でも採用されています。

イノベーションが起きる筋道はひとつではありません。それは Google でも同じことです。遊び心のあるカラフルなオフィスにすれば実現できるというものではありませんが、まったく投資せずに実現できるものでもありません。かと言って、莫大なお金をつぎ込まなくてもイノベーティブになることは可能です。ただし、強いることはできず、育成していかなくてはなりません。

組織にイノベーションが普及するということは、イノベーションがそこで働く人の考え方、日々の働き方、他の人との関わり方の一部となり、尊重されていることを意味します。Google の経験では、組織が最適な環境を整え、適切な人材を採用し、立ち入らず任せるようにするとイノベーションが生まれています。Google では、次の 5 つの要因が新しいアイデアの創造と活用につながると考えています。
  • ビジョン共有 - 組織の方向性を誰もが認識できるようにする。
  • 自主性 - 可能な限り従業員自身が仕事を定義できるようにする。
  • 内発的動機付け - 学習意欲の高い、知識欲旺盛な人材を雇う。
  • リスクテイク - 従業員が心理的安全性を感じられ、リスクを恐れずに新しいアイデアを試せるようにする。
  • つながりとコラボレーション - 従業員が仲間を見つけやすく、協業しやすい環境をつくる。

ビジョンを共有し周知する

ビジョンを共有することでイノベーションの向かうべき方向が明らかになり、解決すべき問題や課題を誰もが認識できるようになります。ビジョン共有は現状維持に甘んじるためのものではありません。組織が直面する大きな問題を解決するために、新しいアイデアを生み、奨励するための共通認識です。

ビジョンを共有すると、目標と優先順位を整理し合意することができます。変化や新たなアイデアを自分の仕事に対する脅威と捉え、拒む人はどこにでもいます。特に、それらが生まれた背景を知らされていなければその抵抗も激しくなります。そうした抵抗を取り払い、チーム全体が受け入れている目標に専念できるように働きかけるのがビジョン共有です。ビジョン共有においては、以下の 2 点に配慮してください。
  • ツール : チーム全員でビジョンを構築する 。チームの存在理由、達成しようとしている目標とそこまでのプロセスをビジョンによって明らかにします。
  • 大胆な目標を設定するビジョンを実現するための目標と成果指標(OKR)を決めます。Google では、会社、チーム、個人レベルで四半期ごとに OKR を設定しています。OKR とは、目標は何か、またそこまでの進捗がどのように評価されるかを明らかにする仕組みです。

主体性と​好奇心を​奨励する

研究に​よると、​従業員が​自主的に​自身の​役割を​定義し、​自らの​意思決定に​基づいて​行動する​ことと、​イノベーションに​つながる​行動​(アイデアの​伝達や​変化の​提案など)の​間には​肯定的な​関係が​認められています。​したがって​大胆な​目標を​設定した​後は、​従業員の​やる​ことに​介入せず、​目標達成の​最良の​方​法を​自由に​見つけられるようにしてあげる​ことが​重要です。​この​アプローチは​ Google の​マネージャー トレーニングにも​反映されています。Google では​優れた​マネージャーの​行動規範の​ひとつに、​「細かく​管理しない」ことを​挙げています。​マネージ​ャーには​一歩退いて、​Google 社員自身に​ベストの​取り組み方を​判断させる​ことを​奨励しています。​もちろん、​常に​そばで​見守り、​必要に​応じて​アドバイスや​指導を​行うのも​優れた​マネージャーの​条件です。

従業員に​自分なりの​斬新な​アイデアを​生み出して​もらいたいと​思うなら、​信頼して​仕事を​任せるだけでなく、​リスクを​冒す​ことを​許容する​必要が​あります。
  • 十分な​情報を​与える。​今後の​サービス リリースから​コードベースの​アクセス、​ポストモーテム​(プロジェクト終了後の​分析検証)の​資料まで、​Google 社員は​膨大な​情報への​アクセスを​許されています。​これらの​情報が、​本来の​業務に​新しい​アイデアを​取り込む下地と​なり、​インスピレーションと​なります。​従業員を​信頼する​ことで、​彼らが​組織の​メンバーと​しての​責任や主体性、​組織の​方​向性を​自覚できるようにしましょう。
  • 好奇心を​刺激し質問を​奨励する。​情報を​公開しアクセスできるように​すると、​従業員に​独自の​意見が​芽生えてきます。​Google では、​全体​会議の​半分の​時間を​質疑応答に​割いて、​Google 社員に​質問や​提案の​機会を​与える​ことも​少なく​ありません。​Google では​持ち前の​好奇心が​高く​評価されます​研究に​よると、​好奇心は​職場での​学習意欲や​就業意欲、​業績を​高める​ことが​わかっています。​質問や​フィードバックの​時間を​設けたり、​従業員アンケートを​実施したりして、​定期的な​発言の​機会を​与えてください。
  • アイデアを​探求する​手段を​提供する。​これには、​時間、​資金など​必要な​リソースに​関する​障壁を​取り除く​ことが​含まれます。​投資せずに​イノベーションを​期待する​ことは​できません。​主体性を​持たせる​ために​ Google が​採用している​方​法の​ひとつに、​「20% ルール」が​あります。​これは、​Google の​エンジニアは、​会社の​仕事に​一応関連しているが​自分の​主要な​職務の​範囲外に​ある​アイデアの​ために、​就業時間の​ 20% を​自由に​使って​よい、と​いう​コンセプトが​ベースに​なっています。​20% ルールから​生まれた​プロジェクトの​中には、​Gmail などの​基幹サービスにまで​成長した​ものや、​Google と​ヤド ヴァシェムの​提携の​ように​歴史的遺物の​保存に​貢献した​例も​いくつか​あります。​20% ルールの​プロジェクトが​すべて​リリースに​至るわけでは​ありませんが、​従業員に​とっては​新たな​スキルを​習得し、​新しい​チームと​連携する​機会に​なります。​20% ルールは​強制ではなく、​実際に​サイド プロジェクトに​時間を​割いている​ Google 社員は​多く​ありません。​それでも、​常に​新しい​アイデアの​探究を​全員に​奨励しているので、​いざアイデアに​従って​行動する​段階で​嫌々​受け入れると​いう​ことは​ありません。
  • 学びの​文化を​育てる。​社員の​好奇心を​くすぐる​もう​ひとつの​方法は、​学びです。​Google 社員は、社員間の​学習プログラムを​通して​社内で​提供されているさまざまな​コースを​受講する​(または​教える)​ことで、​スキルを​磨く​よう奨励されています。Python の​コードから小型機の​操縦まで、​実に​さまざまな​スキルを​教え合っています。​こうした​従業員の​内なる​意欲に​火を​つける​ことで、創造的な​問題解​決力を​養うことができます。

失敗から​学ぶ

会社の​イノベーション力は、​リスクを​受け入れられるか​どうかに​左右されます。​イノベーション プロセスには​リスクが​つきものです。​新しい​アイデアの​なかには​失敗する​ものも​あってしかりです。​失敗を​恐れると​イノベーションは​そこで​止まってしまう​可能性が​あります。​職場に​おいて、​失敗に​よって​実績評価や​給与、​さらには​雇用自体に​影響が​及ぶ​ことを​懸念しない​人は​いないでしょう。

イノベーションを​起こすには、​従業員が​安心して​発言し、​リスクを​恐れずに​新しい​アイデアを​試せる​環境が​必要な​ことは​組織側も​認識しているはずですが、​意図的または​偶発的に、​リスクテイクを​奨励する​どころか​その​意欲を​そいで​いる​ことが​多々​あります。​心理的安全性の​研究者である​エイミー エドモンドソン氏が​組織での​失敗に​対する​対応に​ついて​複数の​経営幹部に​インタビューした​ところ、​非難すべき​行為が​原因で​起こった​失敗は​ほとんど​ない、​すな​わち本当の​意味で​誰かの​責任と​いえる​失敗は​全体の​ 2〜5% くらいに​すぎないだろうとの​回答を​得ました。​にも​かかわらず​彼らは​同時に、失敗の​ 70~90% は​依然誰かが​責任を​取るべきと​捉えられている、​とも​答えています。

したがって、​組織に​おいて​失敗を​どれだけ許容できているかを​把握する​ことが​重要に​なってきます。​さらに、​部門が​違えば​リスクの​許容幅も​異なる​可能性が​あります。​Google では、​四半期ごとに​リーダーが​全社員の​前で、設定した​目標と​その​成果指標​(OKR)に​照らし合わせて​業績評価を​行います。​どの​チームも​目標を​ 100 %達成していない​ことが​ほとんどですが、​進捗状況や​失敗の​詳細を​隠す​ことなく​共有し、​ 設定した​目標を​達成できなかった​理由、​学んだ​こと、​次に​進むための​計画を​リーダーが​説明するように​しています。​このように​失敗を​手本とし、​失敗から​学んだ​ことを​共有して​成功へ​導く​道筋を​立てる​ことができれば、​失敗自体は​問題ではないと​いう​強力な​メッセージが​全社員に​伝わります。

Google 社員は、​失敗から​学ぶ​ために​いくつかの​手法を​実践しています。​プロジェクトが​始まる​前に​チームで​集まって、​プロジェクトが​失敗に​つながる​あらゆる​可能性に​ついて​話し合うこともあります。​「プレモーテム」と​呼ばれる​この​手法は、2007 年に​ ゲイリー クライン氏に​よって​広められました。​このような​ディスカッションを​通じて​オープンに​話す機会を​持つ​ことで、​失敗は​つきものであると​認識し、​実際の​失敗に​備え、​学びを​得る​ことができます。

Google では、​プロジェクトの​立ち上げ時や​サービスに​重大な​障害が​生じた​ときも​同様に、​チームが​再び集まって​事態の​詳細に​ついて​話し合います。​この​「ポストモーテム」は、​うまく​いった​こと、​いかなかった​こと、​そして​改善の​ために​チームで​できることに​ついて​オープンかつ​率直に​話し合う​ために​行われます。​全社員の​前で​プロジェクトの​ポストモーテムの​分析結果を​共有する​チームも​あります。​失敗とは、​組織全体が​学ぶべき​ひとつの​データポイントなのです。

以下の​ツールは、​チームで​ディスカッションする​ための​一般的な​フレームワークです。​必要に​応じて​カスタマイズしてお使いください。

従業員同士を​つなげる

組織の​イノベーション力は、​社会的つながり​(特に​分野を​超えたつながり)とも​関連性が​あります。​研究の​結果、 多様な​考え方の​メンバーが​集まった​グループは、​同じ​考え方を​持つメンバーからなる​グループを​しの​ぐ​成果を​出している​ことが​わかりました。​これは、​全体​的な​パフォーマンスは​もちろん、​複雑な​問題を​解決する​際に​顕著に​表れます。

イノベーションを​妨げる​最大の​障壁の​ひとつに、​新しい​アイデアに​対する​社内の​抵抗が​あげられます。 Google は​数年前に、​研究者の​スペンサー ハリソン氏と​共同で​新入社員の​アイデアが​どのように​行き詰まってしまうのかを​調査しました。​この​調査では、​新入社員に​よる​優れた​アイデアの​ほとんどは​途中で​立ち消えに​なっていると​わかりました。​ところが​経験豊富な​従業員と​組むと、​彼らが​もたらす​多くの​情報、​サポート、​つながりの​おかげで、​新入社員の​優れた​アイデアが​有意義な​ものに​発展する​可能性が​高くなったのです。​このように​見落とされてきた​アイデアに​光を​当てる​ために、​従業員同士が​つながりを​持てるように​組織と​して​サポートできる​手だてを​考えてみましょう。

Google では、​部門間の​つながりを​奨励し実現する​ために​「ピアボーナス」と​いう​制度を​取り入れています。​これは、​Google 社員が​別の​部門の​社員の​貢献を​認める​ために、​互いの​マネージャーの​承認を​得たうえで​ボーナスを​送り合う​仕組みです。​ピアボーナスは​小額の​報酬で、​他の​チームメンバーや​ Google 社員にも​わかるように​指名者が​感謝の​メッセージを​添えます。

つながりを​築く​ための​もう​ひとつの​優れた​方​法は、​同僚からの​フィードバックです。​Google 社員は​毎年、​業務評価の​一環と​して​同僚から​フィードバックを​受け取ります。​また、​簡単な​リアルタイム フィードバック ツールを​使って、​年間を​通して​フィードバックを​送り合うことが​推奨されています。​無理強いでなく​提供される​他者からの​建設的な​フィードバックは、​創造性に​プラスの​影響を​与え、​そこから​イノベーションに​発展する​可能性が​あります。​社員が​罰される​ことを​恐れたり​恥ずかしいと​思ったりする​ことなく、​互いに​リスクを​取る​ことができる​環境ならば、​このような​精神面での​サポートや​建設的な​フィードバックが​生まれやすくなります。​詳しくは、心理的安全性と​チーム内で​それを​高める​方​法に​ついての​記事を​ご覧ください。

リーダーシップを示して指導する

リーダーは、イノベーションを生み出す環境を作るうえで重要な役割を果たします。幹部職であろうと少人数のチームのマネージャーであろうと、そのマネジメントスタイルは部下の仕事のやり方に影響します。創造性に関する研究の第一人者であるテレサ アマビールは、マネージャーが無意識に創造性を抑圧しないようにするための 6 つの方法を提案しています
  1. キャパシティだけを見て機械的に仕事を割り当てない。適材適所を考え、やりがいのある仕事を任せるようにします。飽きることなく強みを発揮でき、しかも力及ばず萎縮するほどでもない課題を与えます。
  2. 目標を設定したら、あとは任せる。どのアプローチを取るかは、従業員が自由に考えられるようにします。人に任せるのは簡単なようで難しく、マネージャーが明確な目標をあらかじめ定めず指揮権を渡してしまったり、自由にさせるつもりが頭の中にすでに「正しい」手順があって、結局事細かに管理してしまったりするという失敗は往々にしてあります。
  3. 誤った期限を設定しない。時間と費用は、創造性を育むためにマネージャーが活用すべき重要なツールですが、個人またはチームにこれらをどの程度許可するかを決めるのは難しいことです。いい加減な期限を設けて創造性を台無しにすることもあれば、時間的制約をほどよく緩めたせいで、逆に内発的動機付けを高める機会を逃してしまうこともあります。費用についても同様にバランスが重要です。
  4. 「なあなあの」慣れ合いのチームに迎合しない。特に対人関係の衝突を避けようとすると、仕事のやり方が似ている者同士が集まってグループを作りたくなるものです。ところがある研究では、均一的なグループはしばしば集団思考に囚われて、多様な考え方や背景を持つグループに比べて創造的思考力が劣ると指摘されています。
  5. 批判的な態度を取らない。新しいアイデアをどのように受け入れていますか? 新しいアイデアが出るたびに懐疑的な態度を取ったり、失敗したという理由だけでそのアイデアに見向きもせず、成功したアイデアと同様に賞賛や関心を示さなかったりすると、チームメンバーはアイデアについて話す意欲を失ってしまいます。
  6. 自己中心的な仕事、駆け引き、ゴシップを許容しない。これらは目前の仕事を阻み創造性を台無しにします。代わりに、共有のビジョンを持つ感覚を養い、チーム間のつながりを活性化するようにしましょう。情報の共有とコラボレーションを推奨するだけではなく、課題としてチームに課すことも検討してみてください。
組織でイノベーションを起こす方法はさまざまです。あなたの行動が周囲へのメッセージとなり、チームメンバーの仕事のやり方や考え方に影響を与えることを忘れないでください。ひとりひとりが自分のアイデアを持ち、リスクを恐れず、境界を越えてつながれるようになれば、彼らのイノベーション力は向上することでしょう。

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