OKRを設定する

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目標の設定

じめに

数々の研究により、目標を定めて取り組むと、従業員のパフォーマンスを改善できることが明らかとなりましたさらに、目標の難易度を上げて明確なゴールを設定したほうが、達成に向けて従業員のエンゲージメントが一層向上する、という研究結果もあります難易度の高い目標を掲げて進捗状況を確認できるようにするために Google でよく使われているのが、「目標と成果指標(Objectives and Key Results:OKR)」という手法です。

OKR の概要:

  • 目標は、場合によっては若干気後れするくらいの高いレベルに設定します。
  • 成果指標は、数値化して測定し、簡単に評価できるようにします(Google では 0~1.0 の範囲で設定しています)。
  • OKR は組織の全員に公開して、誰もがお互いの作業状況を確認できるようにします。
  • OKR では、目標の 60~70% の達成率が理想的です。逆に、達成率が常に 100% の場合、その OKR の設定レベルが低いと言えるので、もっと野心的な目標を立てる必要があります。
  • 評価が低かった場合は、次の OKR を改善するためのデータとして捉えるようにします。
  • OKR は、従業員を評価するためのツールではありません。
  • OKR は、社内共有のタスク管理ツールではありません。

実際のところ、OKR の使い方は他の目標設定の手法とは異なります。簡単に達成できないような目標を設定するのが OKR の狙いだからです。こうした方法で OKR を使用すると、チームは大きな目標を見据えて専心し、完全には達成できなくても予想外の成果を挙げられるようになります。チームや個人が自らの殻を破り、仕事の優先順位を判断して、成功と失敗の両方から学ぶことができる点が、OKR のメリットと言えるでしょう。

OKR の歴史(概要)

インテルの元 CEO であるアンディ グローブ氏は、自身の著書『High Output Management 人を育て、成果を最大にするマネジメント』の中で、OKR のように目標を共有するシステムを効果的に構築するためには次の 2 つの問いに答える必要がある、と述べています。

  1. 自分は何を目指したいのか。この問いに対する答えが、目標です。
  2. 目標までの到達度をどのように測ればよいか。この問いに対する答えが、マイルストーン、すなわち成果指標です。

創業当初から Google に出資してきた投資家の 1 人であり、現在は取締役に就任しているジョン ドーアは、インテルに勤めていた当時にアンディ グローブ氏から OKR について学びました。ドーアが書いたあるブログ記事よると、彼がインテルに入社したのは、同社がメモリメーカーからマイクロプロセッサ メーカーへの転換を図ろうとしている頃でした。グローブ氏と経営幹部は、方針転換を成功させるために従業員に優先度の高い仕事に集中してもらう方法を模索していました。そうした優先事項を従業員に周知し、全員足並みを揃えて転換を成功へと導いたのは、OKR でした。

ドーアはそれから数十年後の 2000 年代初めに、OKR を Google に導入します。Google の経営陣はその有効性を認め、それから数四半期の間に OKR を試験的に使い始めました。現在、Google では 1 年単位と四半期単位で OKR を設定し、全社を対象としたミーティングを四半期に一度開いて OKR の公開と評価を行っています。

OKR は今やアメリカのシリコンバレーの IT 企業にとどまらず、さまざまな組織で採用されています。フォーチュン 100 に名を連ねる Sears Holdings Corporation では、20,000 人の従業員に対して OKR を導入した結果、最終売上と個人の業績で成果が表れました

OKR とストレッチ ゴール

Google では、「ストレッチ ゴール」と呼ばれる、自身が可能と考える設定値より高い目標を設定することがよくあります。達成不可能な目標を定めることは、チームを失敗に導いているのではないかと見られる可能性もあるため、注意が必要です。しかし多くの場合、こうした目標は優秀な人材を引き付け、職場を活気に満ちた環境に変えてくれるものです。さらに、目標を高く設定すると、達成できなかった場合でも格段の進歩を遂げられることが少なくありません。

ここで重要なのは、ストレッチ ゴールの性質と、成功かどうかの判断基準を明確に伝えることです。Google では、目標を 70% 達成できれば成功と言えるような OKR を設定します。OKR をすべて達成した場合は驚異的な成果と見なされます。

長い時間をかけて成し遂げられた月面着陸のような偉業、すなわち「ムーンショット」の基礎となるのは、こうしたストレッチ ゴールなのです。

組織に OKR を導入する

OKR で重要なのはその透明性です。OKR を組織に導入するときは、OKR とは何か、なぜそれが有用か、そしてどのように使用するのかを明確にしましょう。納得した目標を目指すと、人は高い実績を上げられることが研究によりわかっています。そのため、全員が積極的に目標に関わることが重要です。

OKR 導入のヒント:

  • OKR とは何か?OKR とは何か、どのように機能するかをわかりやすく説明します。

  • なぜ OKR を使用するのか?現状において組織がどのように目標設定をしているかを検証し、その問題点や限界を指摘します。

  • OKR はどのように機能するか?スケジュール、各自に求められること、重要な節目となる指標、目標達成度をどのように自己管理するかなどについて説明します。

  • それでも OKR に懐疑的?質疑時間を十分にとり、疑問をできるだけ挙げてもらうようにします。

認識の統一。OKR の導入により、組織にとって何が重視されており、目標の達成がどのような基準で判定されるのかを全員が理解すると、各自の課題と組織の目標を結びつけるのが容易になります。

規律と優先順位。組織の一員として、優れたアイデア、価値のあるプロジェクト、必要とされる改善に異を唱えるのは難しいものです。しかし、最も重要な目標について全員で合意すると、それより重要度の低い案に対して異を唱えることが容易になります。政治的または感情的な理由で異を唱えるわけではなく、組織全体ですでに合意した目標に基づいて理性的に反応できるようになります。

コミュニケーション。OKR は組織内で公開し、組織の目標と成果指標をすべてのメンバーに周知する必要があります。元 Google 社員で Twitter の CEO も務めたディック コストロ氏は、「Google から学んで Twitter に応用したことは何ですか?」という質問に次のように答えています

「Google で学んで Twitter に応用したものといえば OKR(目標と成果指標)です。何が重要か、そして何が重要かをどう判断するかを、すべての社員が理解できる優れた方法です。OKR は本質的に、戦略を伝え、それをどう評価すべきかを周知するための優れた手法であり、私たちもそういう使い方を心がけています。企業が大きくなるにつれて色々と難しいことが出てきますが、その最たるものがコミュニケーションです。これは本当に難題です。しかし OKR を活用すれば、すべての社員が目標の達成や戦略の評価基準をしっかり理解できます。

目標と成果指標を設定する

Google で目標を設定する際は多くの場合、組織の OKR の設定から着手します。3~5 個の目標を立て、それぞれの目標について成果指標を 3 個ほど設定し、全体としての優先順位を決めます。OKR は、トップダウンとボトムアップ双方の提案が組み合わさることで高い効果が期待できます。それには、時間をかける価値があると思うことは何か、最大限の力を発揮するにはどうすればよいかなど、組織の誰もが意見を述べられる土壌が必要です。

目標を設定する際のヒント:

  • 目標は 3~5 個に絞ります。目標が多すぎるとチームにとって過度な負担になり、気が散って集中できなくなることがあります。
  • 「採用を続ける」、「市場での地位を維持する」、「X を継続する」など、さらなる高みを求めない表現は使わないようにします。
  • 「山を登る」、「パイを 5 つ食べる」、「Y という機能を実装する」など、到達点や状態を示す表現を使用します。
  • 具体的、客観的、かつ明確な言葉を使用します。目標が達成されたかどうか、客観的に見て明らかであることが必要です。目標の具体性が高いほど、達成できる割合も高いことが調査により明らかになっています

成果指標を設定する際のヒント:

  • 1 つの目標につき、成果指標を 3 個ほど設定します。
  • 計測可能で、実現すれば目標達成に直接結びつくことがわかるような指標にします。
  • 行動ではなく、行動の成果を定義します。たとえば「相談」、「支援」、「分析」、「参加」などの言葉が含まれている場合は、行動を定義していることになります。成果指標では、「顧客満足度を評価する」ではなく「3 月 7 日までに顧客満足度を公表する」といったように、行動の成果を記述しましょう。
  • 計測可能な指標には、完遂の証拠を含める必要があります。こうした証拠は、入手可能で、信頼性があり、容易に見つけられるものでなければなりません。

OKR の作成時に注意すべき落とし

OKR で明確な目標を設定し、合意形成された成果指標によって達成度を測れるようになると、チーム内では成功への意欲が高まり、組織は優先度の高い目標に集中的に取り組めるようになります。一方、設定した OKR が不適切な場合、戦略に混乱を招き、社内指標が形骸化し、チームの心理が現状維持に傾くおそれも出てきます。OKR を設定する際は、次のような回避すべき落とし穴に注意しましょう。

1. OKR がストレッチ ゴールであるという説明の欠如 - ストレッチ ゴールの設定では、その実現に取り組むチームはもちろん、目標達成の一環である仕事にかかわる他のチームとも、十分なコミュニケーションをとる必要があります。自分のプロジェクトが他のチームの目標と関係がある場合は、その目標設定の方針をしっかりと理解しておきます。他のチームがストレッチ ゴールを設定している場合、そのチームの OKR は 70% 程度実現されるものと考えましょう。

2. 「現状維持でよし」的な OKR - チームやその顧客が本当に必要としていることを目標にするのではなく、現在やっていることを一切変更せずに達成できそうな目標を設定してしまう場合があります。これを検証するには、チームの現在の仕事と新たに要請されているプロジェクトを、必要な労力と価値の観点から順位付けします。順位の低いものが OKR に含まれていれば、それは現状維持を目標に定めただけだと言えます。優先度の低い目標は取り消して、重要な目標にリソースを配分し直しましょう。ときとして、同じ目標(たとえば「顧客満足度が XX% を下回らないようにする」など)を複数の四半期をまたいで設定し続けることもあります。それが常に優先すべき事柄であれば、OKR の目標として問題ありません。ただし、チームが革新を続けて効率を向上させていくためには、成果指標を発展させていくことが必要です。

3. 意図的に実力を隠す - メンバーの力を結集しなくても OKR をすべて達成できているチームは、リソースを十二分に活用していないか、高い目標を掲げていないか、あるいはその両方の可能性があります。

4. 目標の価値が低い - OKR では、明確なビジネス上の価値を示すことが不可欠です。そうでなければ、目標達成に向けてリソースを投入する必要はありません。目標の価値が低いと、たとえそれが完全に達成されたとしても組織に大きな違いは生まれません。合理的な状況で OKR を 100% 達成できたと仮定して、組織に直接利益がもたらされないようであれば、具体的な利益に焦点を絞って OKR を作成し直しましょう。

5. 目標に対する成果指標が不十分 - 特定の目標を達成するために必要なことがすべて成果指標に盛り込まれていない場合、その OKR では予想外の失敗が起きる可能性があります。その結果、リソースの必要性や、OKR のスケジュールの遅延に気付くのが遅れることにもつながります。

チームの OKR を策定する

OKR の策定方法は状況により異なりますが、最初に組織の目標を表明しておくと、チームや個人がそれを考慮して自分たちの目標を設定できます。この方法なら、組織全体の OKR に整合性をもたせることができます。次に決めるべきは、組織を何階層に分けて「チームの OKR」を設定するかです。部門ごと、職種ごと、サブグループごとなど、どのレベルで OKR が必要かを検討してください。

チームレベルの目標設定においては、必ずしも組織の OKR のすべてを各チームの OKR に反映させる必要はありません。組織の OKR のいずれか 1 つだけに注目し、チームの OKR を設定することもできます。ただしチームの OKR は、組織の OKR の少なくとも 1 つには関係している必要があります。

チームの OKR の設定にあたっては、すべてのチームリーダーが集まって目標を設定するのも 1 つの方法です。Google では、各チームリーダーが会社の OKR に沿って、次の四半期の優先事項をリストアップすることもあります。これらの優先事項を書き出す際、組織の OKR との整合性を意識しながら以下のような点を確認してください。

  • チームの優先事項が、組織の成果指標のいずれかにつながっているか?
  • チームの優先事項により、組織の OKR を達成する可能性が高まるか?
  • チーム外の人から、このチームが取り組むべきと思われている事項は抜けていないか?
  • 優先事項は 3 つ以上あるか?

なお、OKR はチェックリストではありません。チームがこの四半期に取り組むべき事項の一覧ではないのです。OKR を「チーム共有のやることリスト」であると解釈してしまうと、チームとして達成すべきことではなく、やりたいことを杓子定規に並べることにもなりかねません。OKR は、チームとしてどのような影響を及ぼしたいかを定義し、それを達成するための方法を考え出すためのものです。

以下に、チームと個人の OKR の例を示します。これらの OKR は、「市場シェア xx% を達成する」という組織の目標を後押しするために設定されたものです。

チームと個人の OKR の例:

目標: [製品名] の収益の成長を加速させる

成果指標:

  • xx 機能を全ユーザーにリリースする
  • xx に取り組み、ユーザー 1 人あたりの収益を xx% 増加させる
  • 収益に特化した 3 つの実験を実施し、収益の成長を促進する要因を特定する
  • xx 機能をリリースするための技術サポート体制を第 1 四半期中に整備する

目標: [製品名] の評判を上げる

成果指標:

  • 3 つの業界イベントで講演を行い、[製品名] の市場牽引力を再構築する
  • トップユーザー xx 人を特定し、個人的に働きかける
  • ユーザーのエラー報告に対する応答時間を xx% 短縮する

OKR の評価

Google では通常、OKR を 0.0~1.0 の数値で評価します。1.0 は、目標が完全に達成されたことを表します。成果指標を個別に評価し、それらのおおよその平均に基づいて目標を評価します。ここで「おおよそ」と付けたのは、成果指標に重み付けが異なるものがあるからです。たとえば、成果指標が「新しいウィジェットのマーケティング キャンペーンを開始する」だった場合、最終的な結果は「開始したかどうか」なので得点は 0 か 1 のどちらかになります。一方、成果指標が「6 つの新機能をリリースする」であれば、3 つだけリリースできた場合の OKR は 0.5 と評価されます。科学的ではないかもしれませんが、重要なのは実態をしっかり反映しているかどうか、そして何よりも評価方法に一貫性があるかどうかです。

OKR の評価において考慮すべき事項:

  • OKR の最適な達成率はおおよそ 60~70%。これより低い場合は、その組織が十分な成果を上げていないことを意味するかもしれません。達成率がこれより高い場合は、設定した目標が低すぎた可能性があります。Google の 0.0~1.0 の評価法では、すべての OKR の平均点が 0.6~0.7 に収まるのが理想です。OKR を初めて導入するときは、違和感のある目標を設定して「達成できない」ようにすること自体に違和感を覚えるかもしれません。
  • OKR は、実績を評価するためのツールではない。言い換えれば、OKR は個人や組織を包括的に評価する手段ではないということです。むしろ、個人が前期にどのような仕事に注力していたかを要約し、組織の OKR への貢献や影響を明らかにするために使用するものです。
  • 組織の OKR の評価を公開。Google では、組織の OKR を 1 年ごとと四半期ごとに評価して共有するのが慣例になっています。年の初めには全社的な会議を行い、前年の OKR の評価を共有するとともに、新しい年と四半期の OKR を公表します。その後は四半期ごとに全社会議を行い、評価を検証して新しい OKR を設定します。全社会議では、各 OKR の所有者(通常は該当チームのリーダー)が、評価と翌四半期の調整について説明します。
  • 四半期中にも OKR を検証。最終的な評価の前段階として、四半期の中頃にすべてのレベルの OKR を検証し、個人とチームが現時点でどこにいるかを把握できるようにします。四半期中の検証の結果は、最終的な評価に向けた準備になります。

カスタマイズ

OKR(目標と成果指標)スコアカード

こちらのドキュメントを使用し、カスタマイズすることによって、目標と成果指標(OKR)を記録し、評価してスコアを計算できます。

OKR(目標と成果指標)スプレッドシート

こちらのスプレッドシートを使用し、カスタマイズすることによって、目標と成果指標(OKR)を評価して総合スコアを計算できます。

OKR を定期的に更新する

Google では、OKR を企業戦略の設定に利用しています。つまり、OKR は企業として達成しようとしている目標の一部です。チームによっては、OKRの再検討を四半期ごとに数回行うことで、目標達成に大きく近づけることがあります。OKR を用いて目標調整をすることで、チーム全員が新しい情報を反映しやすくなったり、達成できそうにない目標を取り下げたり、あるいは達成確率は五分五分だがリソースを追加すれば効果が見込める目標に集中的に取り組むなどの対応が行いやすくなります。次に示すのは、チームとして OKR の設定に取り組む場合のスケジュールの例です。

OKRのスケジュールの例

チームで再検討を行う頻度は、チーム固有の季節要因や、チーム内でコミュニケーションが確立されているか、チームの実行力に基づいて結果を的確に予測できているかなどによって変わってきます。

Google の場合、チームによっては四半期の中頃に再検討を行うと効果があり、メンバー全員が同じ目標から目をそらさず進めるようです。また、四半期の目標を一度だけ簡単に見直すだけで十分なチームもあれば、厳しい見直しを予定に組み込んでいるチームもあります。

OKR に関する Google のプレゼンテーション(動画)

Google Ventures チームでは、投資先企業の皆様に向け、OKR の活用方法について Google が学んだことを紹介しています。Google Ventures のパートナーであるリック クラウは、OKR を初めて導入することを検討している数多くのスタートアップ企業を対象にこのプレゼンテーションを行いました。プレゼンテーションでは、OKR とは何か、急速に成長するスタートアップ企業において OKR がどのように役立つか、また OKR を導入する際に避けるべきことは何か、などを説明しています。