人間は、何気ない方法で互いにさまざまな合図を送っています。それはときとして、無意識の偏見の影響を受けていることがあります。そして場合によっては、マイナスに作用してしまうこともあります。こうしたネガティブに働く合図のことを、研究者たちは「マイクロ インイクイティ(小さな不公平)」と呼んでいます。この小さな不公平に何度も遭遇すると、その体験が徐々に積み重なって帰属意識や価値観に大きな影響を及ぼしかねません。
周りの人のちょっとしたしぐさによって、その場で疎外感を覚えたり、活動への参加をためらったりすることもあります。ある調査結果によると、自分が周囲の目にどう映っているかということが(存在が認識されず「映っていない」場合も含めて)生理的および認知的な影響を及ぼすことがわかっています。この調査では、あるグループには参加者の大半が男性という会議の動画を、別のグループには参加者の男女比に差がない会議の動画を、それぞれ見てもらいました。その結果、前者に属する女性被験者は後者の女性被験者と比べて、ストレスレベルがきわめて高くなる一方、帰属意識や会議への参加に対する関心は低くなることが確認されました。Google では、従業員、会議の出席者、イベントの参加者などのリストを作成しようとする場合に、その意味合いを認識し、無意識のメッセージが潜んでいる可能性について配慮するよう心がけています。
個人的なキャリアパスに対する関心が物理的環境によって左右されることを明らかにした、別の調査結果もあります。研究者はこの調査で、コンピュータ サイエンスを専攻していない学生たちに、この分野に関心があるかどうか質問しました。すると、教室に設置された品々が、学生たちの関心に影響を与える可能性があることがわかりました。つまり、いわゆる「マニアック」なもの(スタートレックのポスターやビデオゲームなど)が置いてある教室と、平凡なもの(自然の景色のポスターや電話帳など)が置いてある教室とでは、前者にいた女子学生の方がコンピュータ サイエンスへの興味が著しく低かったのです。
これは何も、全員に同じような居心地の悪い環境を作り出すべきだという意味ではありません。重要なのは、特定のグループを疎外したり、あるいは特定のグループのみを歓迎する何気ないメッセージを発信したりすることが職場でも起こり得ると認識することです。Google では、レゴ、スターウォーズのポスター、おもちゃの鉄砲といったものを社内から一掃したわけではありませんが、従業員には職場のデザインや装飾について気を配るよう働きかけています。